御文シリーズ① 聖人(商人)、一流(一柳)の巻

商人、一柳(いちりゅう)の豪家(ごうけ)のおもむきは・金銀をもって本とせられ候。その家は、ぼろぼろの造形(ぞうぎょう)を投げ捨てて・一心に無駄を棄行(きぎょう)すれば、不可思議の雁力(がんりき)として、大津の方(かた)より、鴨盛(おうじょう)は事成(じじょう)せしめたもう。その蔵家(くらいえ)を・七輪発起入(ひちりんほっきにゅう)焼上死受(しょうじょうしじゅ)とも寂(じゃく)し、そのうえの生命人物(しょうみょうじんぶつ)は、女来滋賀王城(にょらいしがおうじょう)をさだめたまいし、御恩不忘心(ごおんふぼうじん)の念仏とこころうべきなり。
                                  はたかしこ、はたかしこ


[意訳]
昔々、近江商人であった一柳家の豪邸は、金銀の贅を尽くしたものでした。
その一柳さんの家は、今までみすぼらしいぼろぼろの家でしたが、一心に無駄遣いを嫌い、蓄えに蓄えた財宝を投げ捨てるように使い果たし、建てたものでした。不可思議なことに、琵琶湖の大津方面から雁や鴨なども建設に協力してくれて、立派な豪邸が建ちました。
しかし、その豪華な蔵や家も、新築の祝宴に使った七輪の火の不始末によって、一瞬のうちに炎上し焼失してしまい、地元の商人やたくさんの鴨も死に、寂しい状況になりました。
幸いにも生き残った人物は女性ばかりでしたが、後に滋賀県一といわれるような王城を建立されました。
先人の御苦労や鴨の協力に対する御恩は忘れてはならないと、近江商人は、今でも「鴨舎(おうしゃ)城(じょう)の悲劇」と言って、念仏をたやされないと言うことです。


2018年05月05日